コラム『一炊之夢』 有限会社藤井米穀店 藤井博章

コラム19「ミューズメントホテル」

大きなテレビ、広いベッド、大きなバスタブ、水圧の強いシャワー、ムーディーなフロアライト、おしゃれな鏡、上品で落ち着きのある部屋。
この建物には、フロントはあるが、人はいない。外国の人が泊まって、日本にはこんな素晴らしいアミューズメントホテルがあると絶賛したという。
「ル、ル、ル」と男のケイタイが軽自動車の中で鳴り響いた。胸ポケットから取り出し画面を見た。(あれっ?嫁からだっ!)
「あなたっ!何処にいるのっ!」
(うん?)「・・・いや駅前のパチンコ屋に向っている・・・!」
「おまえこそ、何処にいるんだ?!」
(おかしいな〜あの男の黒のセダンに乗って、もう出てくるはずなんだが・・・?)
予想が外れて男の方が慌て気味である。
「何言ってんの!もう家に帰っているわよ!用意していった夕食まだ食べてないやん!」
軽自動車のエンジンをかけたまま、ライトを消して道の端に止め、あの黒いセダンの出てくるのを待っていた。
「もう帰っているのなら、俺もすぐ帰る。」
嫁は最近、PTAとか女子会とかでよく出かける。いつものように「遅くなる。」と出て行った。何かおかしい。知人のうわさを耳にして、現場をおさえるために張り込んでいたのだが・・・。

「お客さん!チョット待って下さい!」
男と女はドキッとして振り返った。自動ドアの開くまえである。女の顔から血の気が引いた。
「お客さん。5番に停められていた車ですね?」男は怪訝な顔でうなずいた。
「こちらの従業員出口から出て下さい。車は預かって移動しておきますからキーを!あの車は外から見張られていますから・・・。」
女と男は、別々のタクシーで家に帰った。
女は一息ついてから、「あなた!何処にいるの!」である。

疑っていた旦那も、他の男と一緒にいた嫁も一件落着なのだ。

ここも外国人の言うアミューズメントホテル。このホテルも犯罪防止のため、目立たない所に防犯カメラがそこここについている。ホテルの事務所にはモニターが並んでいて、客の出入りが監視できている。

コラム18「寒い夏」

「いつもお世話になります。ネクストライフの小石です。・・・・・社長さん?」
いつもの明るい声である。
「ああ、そうです。お世話になってます。」
「今日は、10袋でお願いします。」
「じゃあ、明日、吹田の方に届けておきますが、10袋ですか?」
「室長が月末だから・・・って。少なくてすみません」
すまなさそうな声である。

大阪造幣局の桜の通り抜けも終わった頃、50歳がらみの小柄で人の良さそうな人が、スーツ姿で腰低く店に入ってきた。赤色の目立つネクタイが、一寸変なバランスで印象的だ。
「お噂をお聞きして寄せてもらったのですが・・・。」の言葉で、事務所に招き入れた。
差し出された名刺には、○○法人ネクストライフ大阪営業所 開設準備室 室長欄戸大次と書かれてある。
「実は弊社は東京の食品会社ですが、2年程前から、ネクストライフという別会社を作りまして、教員や学校長を辞めた方、役所を定年になる方々の組織がありまして、それらの方が故郷に帰ってペンションや田舎カフェをおやりになり、その応援の組織としてのネクストライフであるのですが、2年目の東京が軌道に乗りまして、大阪でもと言う事になり、準備を始めたのですが、その土地土地で、まじめに頑張っていらっしゃる企業さまとお付き合いさせてもらっています。フジイさんのブレンド米を社長や社員が何度か買わせていただいて、ぜひフジイさんの米を・・・となりまして・・・。」
「で、具体的には?」
「連休明けから動き出しますが、大阪では只今、当方の説明会で、こちらの教育委員会や、役所の退職者さでご賛同願える方を募集中です。東京では会員様が増えていますが正直大阪では、まだ解りません。」
彼は一呼吸おいて、書類を机の上に置き、
「で、取りあえずは、社長さんが納得していただけるようでしたらの話ですが、米の代金は月末締めの翌月末払いになります。大事な事なので先に言っておきます。こちらは会員様の方から、他の食材代金と合わせて集金せねばなりませんのでタイムラグが生じます。あまり値段の高いものは困りますが、会員様には喜んでもらえるような食材ばかりを提供しています。できれば30kg袋で5袋程、吹田の契約運送業者の倉庫まで配達してもらえませんか?」 大手運送業者の倉庫である。そこで様々な食材を集めて各地にむけて配送するようだ。

で、取引が始まった。吹田の倉庫に納品した帰りに新大阪へ開設準備室に納品書を届ける。
「ご苦労さま。」
開設準備室の小さなソファに座らされた私に室長自らお茶を運んでくる。
「まだ大阪は準備中なので、9月始めに、もっと広い所に引越して大阪営業所として頑張ります。」

「フジイさん、このビルの隣のごはん屋さんもフジイさんとこの米でしょう。皆、美味しいと言ってますよ。」
何度か納品書を届ける度に、社員さんとも冗談が言える仲になっていた。社員さんは皆、明るくて笑顔がいい。
「今日も外は暑いでしょう?」と笑顔の小石嬢。
「いやあー。世間の風は冷たいから私には丁度良いかなあー。その上、家に帰ったら台風ですわ!」
「・・・何か悪い事したん?」
「うん、バレちゃってん!」
「・・・・・?」
「冷蔵庫にあった絶品のアイスクリーム、余分に食べたんですわ」
「なあんだ。しようもなあ。」
「どんな内容期待してたんですか?」
「アイスクリーム、アイスクリーム、冷たい話でしょ!」

「おかげさまで大阪も動き出しましたわ!変な話ですなあ、岡山や和歌山の米の産地へフジイさんのブレンド米が行くんですから、現地に米なんて山程ありますのに・・・・」と室長。

朝、呼ばれて電話に出ると
「フジイさん!盆休みはいつからですかー?」あのダミ声の室長から直々の電話。いつもの注文時は、明るい声の小石嬢なのに・・・。
「いよいよ、正式に大阪営業所が動き出します。今日の午後準備室にいてますから寄ってくれませんか?」
昼過ぎに開設準備室に入って行くと室長だけで、他の社員はいない。今、社員たちは新しい営業所の方に行ってるとの事。新大阪のサンサンビルだと言われた。
「盆前で忙しいでしょうが、いつもの倍、吹田の方へ納品して下さい。」との事。

目の付け所が良いのか、右肩上がりの納品数だ。親会社の食品会社からは、月末に必ず当方の銀行口座に振り込まれている。

盆休みも終わった。室長から電話だ。
「フジイさん、いよいよ9月から大阪営業所としてサンサンビルの方に移りますが、20日にいつもの倍、吹田の倉庫に納品して下さい。支払入金の方は、月末が日曜日と重なりまして、私の方も集計で移転で忙しく9月の10日に振り込みますがいいですか?」
そう言われても、こちらも今まで入金の遅れる事がなかった。いやとは言えない。
「いいですよ。」
「すみません!早めに片付けて10日までには、集計をして払い込みます。スミマセン!」

9月10日、ネットバンキングの当方口座を開けても親会社からもネクストライフ大阪営業所からもない!振込みがない!
営業所に電話を繋げても
「オカケニナッタ電話番号は現在ツカワレテオリマセン。番号をお確かめになってオカケナオシクダサイ!」
だと・・・。
・・・・寒い寒い夏を味わった。

コラム17「マンダラ模様」

「ハッ!」と目がさめた。まだ夜中の2時。酔っぱらって畳の上に乱雑に置いた布団にかろうじて体が乗っていた。外の強い雨音で目がさめたのだ。
明日朝に黄色い帽子を被った小さな小学生が「マチナカタンケン」とかで当店に訪れるのを寝ぼけた頭の中に思い出された。

なぜか、最近は晩酌と共に体が沈んで、風呂も入らずダウンして夜中にバッチリ目が覚めることが多くなった。
今も、灰色がかったマンダラ模様のつぎはぎだらけの夢を見ていたようだ。
「フジイに内緒だぜ!」と言ったあの男、ニヤニヤこちらを見ている。ブルーテントの家に鍵をつけようとしている俺。そのブルーテントが淀川の河原なのか、高層ビルの屋上のコンクリートの上なのかあいまいである。兎に角、風が強くブルーテントに必死になって鍵をつけてる俺。その横を彼女が顔見知りの男と手をつなぎ笑顔で振り返りながら通り過ぎる。なぜか負けるものか!必死に鍵をつけようとしている。

夢だ!酔っ払って寝てたんだ!

淀川区のシャレた広報誌の表紙と見開きのページに、最近他地区から来られた同業者が特集されている。
この淀川区広報誌の発行当日夜、淀川区米屋団体の総会があり、その話題になった。
「俺達淀川区のイベントにも協力したよなあ〜」「今迄の区長何やってんだあ〜」米屋の「会長!この記事の事知らされてたんかあ〜」である。
副会長の俺はこの場で酔ってなんかいられない。帰宅するや否や、淀川区広報のホームページを開けて、フジイヒロアキからの抗議のメールである。「行政誌たるもの特定業者の広告まがいの記事はいかがなものか?ご返事を・・・」である。
会長には表立っての行動はダメとの思いがあった。どこかの大統領が小さな島によじのぼって○○領と書かれた店に手をそえるような真似はさせられない。
昼までメールの返事を待ったが来ていないので、係に電話をすると「元会長さんからおしかりをうけた!」とかでオロオロの返事。

そんな、こんなの実生活の中にも灰色のマンダラ模様の多い昨今である。

異業種の会。親しい会員さんの電話がかかってきた。永らく会には出席していなかったが懐かしさのあまり「名前だけ貸してくれ!」との言葉に「いいよ!」と答えてしまった。
メールで「あなたは幹事で副部長なのだから幹事会に出席してください!」ときた。
知人の借用書に保証人の印を押したようなものだ。
幹事会に出席。俺が一番年上。話が会員の数を増やす「増強」とかの話になった。
会の終わりの方で「一寸、一言いいかな〜」毎月ある例会さえ良い会にすればゲストさんもすぐはいってもられるよ。良い例会が先じゃないかなあ〜?と偉そうにいってしまった。

大阪の米屋の団体を立ち上げる会があった。懇親会の席で親子で来られている会員さんがおられた。親子さんならマンダラ模様の判断をされずにすみそうだ。
・・・他の米屋さんの会に呼ばれた時の話だけれど、「この中に米を扱っている人いますか?」上から目線で・・・
「皆さんは米に扱われているのと違いますか?」産地や銘柄に踊らされていませんか?・・・・
灰色のマンダラ模様の夢をみる裏返しに、実生活ではウップンはらしの偉そうな昨今です。
スンマヘン!

コラム16「東京、暑い」

「フジイさん。始めのお昼 何食べた?」「インド料理だったかなあ〜」「2日目、何処へ行ったあ〜?」「上野だったかな?浅草だったかな〜」2泊3日の東京めぐり、自分の娘位の年令の二人の美女と、暑さの中での盆休み。
ある時は高級ホテルで食事。ある時は下町で、あんみつや大学いもの飴だき。
上の公園のサテンで、ソフトクリームをほおばりながら、その店のおばちゃん相手に大阪談義。
上野の神社と、友娘は、賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼のおまいり、数人の外国人の一人も、鈴を鳴らし、型通りのおまいりをしている。じゃあ自分もと・・・と、思ったが二礼二拍手か・・・オタオタ。「オーマイミステイク!」それ聞いた外人さんがゲラゲラと笑う。「ウエアー、アユーフローム?」オランダからとの答え。小さな民間外交である。
ちなみに。よく見ると、賽銭箱の横に英語で、おまいりの仕方がかいてあったのだ。
同じく上野公園。小さな女の子自分達の座っている石垣に座りたいらしい。「ニーハオ!」小さな女の子に「ツオ?」と手まねきしたら、そのお母さんが日本語で「トイレどこですか?」と聞かれた。「ツオッソオーあの方向にありましたよ」と。

インド料理、マレーシア料理、多国籍料理、イタリアン、フレンチ。
川越まで足をのばして、小江戸見物。
お腹がすいたなあ〜と小江戸パンフに載っていた日本料理の店の前「準備中」のカンバン。あれ。入れない!と思っていたら、中からおかみさんらしき人。「店、終わり?」と聞けば「何名さま?」と聞かれ「3名!」と答えると、店の中の人に聞かれて「どうぞ!」である。「サービスうな丼、デザートつき」なる物を、ガツガツ。川越から帰りの列車は3人とも爆睡と言ったら女性に失礼かな?
品川から新幹線、東京漫歩最後の夜、3人で韓国料理で打上げ、東京住いの一人を残して・・・。下町、ホテルの上階、両国から隅田川の観光船、スカイツリー。

東京に一人残した女友達が関西に転勤になって戻ってきた。

彼女達と、そのご家族には親しくしてもらって、又、又年を取るのを忘れてしまいそうだ、ありがとう!

コラム15「ナイショの…。」

夜8時。雨もあがり、気分も爽やか。
ムーディで華やかな街。黒っぽいスーツのカッコイイ男。胸のあたりの大きく開いたドレス。ピンクのハイヒール。路の両側の華麗だが品のある店。歩道の間をゆっくり走るタクシー。辻の角に止まったパッシングライトのタクシーから、細い足を出して降りる女性。数人連れのスーツ姿の男性。皆、笑顔である。
「フジイさん!何処へ行くの?」
1ヶ月程前、伯父さんたちに連れてもらったクラブのママだぁ〜。
「うん。この先の今日、新規開店の店に、この友達がお祝いを持って行くので一緒に…。」
仲間の知人の店が。今日オープンなのだ。
「帰り寄ってよ!又、ナイショの…。」
「ウン!できたらそうする!」
あのママ、なんで俺の名前覚えてるんだろう?先日は伯父さんの友人たちと一緒で、俺の影など、うすいはずなのに…。

「いらっしゃい!」
「らっしゃいませ!」
店の中はムンムン、大勢のお客様で華やかだ。次から次に、お祝いにいらっしゃる客の出入りが激しくて、おちついていられない。
「フジイよ、先程の店へ行こうよ!」
もう一人の友人がこの雰囲気になじめないのか、もう浮足だっている。
「マスター帰るわ!頑張ってや!」
祝いを持ってきた友人が知人のマスターに声をかけて、その店を出た。

先程声を掛けられたクラブは、期待して良いような…。一寸心配な…。この友人達と一緒では…。
ママの店のドアを押した。
ゴージャスな絨毯、ムーディなシャンデリア。「こちらへどうぞ!」腰が沈み込むようなソファ。粋なテーブル。小洒落たテーブルランプ。
俺達4人は、一寸カッコをつけて、言われたままに座った。
店の中。客はまばらだが、お嬢さん達と会話中、時々笑い声が聞こえる。
あのママが俺達のテーブルに来た。先程外で声をかけられた時は、確か洋服だったはず。今は着物姿だ。
「フジイさん、いらっしゃい!皆さんお友達?」
と言われ、頷く間もなく、高そうなボトルがテーブルにデン!と置かれた。ボトルの首には、フジイと書かれた名札がぶらさがっている。(ええ〜!こんなボトル預けたはず無いよ〜…。)
「皆さん水割りでいいですか?」涼しそうなママの声に友達は皆頷く。
4人分の氷の入ったグラスに、デンのボトルからジャーとそそがれた。丁度空になった。
「ボーイさーん」
とママがボトルをあげて、次の同じ型のボトルがデン!である。
女の娘も集まってきて俺達の間に。ママが1人1人の名前を紹介して席を立った。
「オマエ、この店に俺達に内緒できてたんか?」
この前伯父さんたちに連れられて、今日で2回目だと弁解。
「オマエのボトルあるやんけ!こんないい店、俺達に内緒で通ってたのか?ズルイぞ!」
そばの女性達はニヤニヤ。
ママが俺達の席に帰ってきた。
「ママ!先程フジイに内緒がどうとか言ってたけど…?」
「あーあ、ボーイさーん!」
ママがボーイさんに耳打ち。少ししてボーイさんが青い紙袋に入った天津栗を4袋持ってきた。
「他のお客さんに内緒よ!あなた達にプレゼント!」
「ウン美味しい!」
と友人。
(そうかなぁ〜他で作られているのと変わらないけどなぁ〜)
(先程の友人達の言葉、こんないい店。フジイが常連。フジイのボトルがある…一寸ステータス感!)
でもやられた、少し酒の残っているボトル。ボトルにかけられたフジイの名札。又、寄って内緒…云々。

その後、その友人の1人が、この店の作戦にはまって常連客になったようだ。

年を重ねた今、久し振りにその店の前を通ったが、まだ健気に頑張っておられる様子。あの立派なカンバンもあの時のまま。
又、一度機会を作って、あの豪華なドアをあけてみよう。俺もアホやなぁ〜になって。

コラム14「武士と商人のDNA」

東京駅に着いた。構内のエスカレーターに乗る。「あれっ?」皆さんは、エスカレーターの左側にへばりついている。右側が空いているのだ。右側を追い越していかれる方がいる。じゃあ私も・・・、と右側に立ったため歩を進めなければならない。

 朝、新幹線に乗り遅れないよう、新大阪駅正面のエスカレーターでは、並んでおられた左側を駆け上がったはず。大阪では、エスカレーターの左側を空け、右側に立ち並んで上っていく。

 7月2日の日経新聞の記事では「左右どちらを空けるのかは、新幹線で言えば、岐阜羽島駅あたりが境界。」と書いてあった。

 昔、東京は武家社会。大阪は商人社会。
 武士は左腰に刀を挿し、右に並んでいると後ろにつき出たサヤが邪魔になり、左を追いぬく人のさまたげになる。又、武士が相手を切りつける時には、左に立っている方が道理にかなっている。
 大阪は、左手にそろばんを持ち「この価格でどうでっか?」と商売をする。
 その脈々たる血が現代の社会にも受け継がれて流れている。武士は左に立つDNA、商人はそろばん片手の右に立つDNAが自然にそうさせているのだ。

 じゃあ京都は?
 京都駅で見てるとおもしろい。
 朝と夜は右に並び、日中は左に並んでいる。なぜなら京都は関西地区、通勤客や学生が朝晩行き来するので大阪型、日中は観光客が多いので東京型なのだ。
 では、皆さんが住んでおられる所はどうでしょう?
 私は時あるごとに、この話を持ち出している。
 このエスカレーターの左右の事や、武士商人の事は、私の作った「作り話」である。ウソである。が、皆さん妙に納得して下さるのはなぜだろう?

 1970年、大阪万博の動く歩道を利用した際、「右に立って左を空けてください」と案内があったそうだ。
 この事で一番困る業者の方がいた。エスカレーター業者だ。本当は真中に乗ってほしいそうだ。エスカレーターが片減りするから・・・だ。

 海外に行くと、国によっては車道が日本と反対。空港から車に乗ると日本とは反対車線で走られるので変な気分。でも「ああ、日本と離れたなぁ〜」と実感もする瞬間でもある。

 今後は、左ハンドル、右ハンドルの作り話も考えてみたい。

コラム13「アホと煙」


 関西空港そばのホテルの最上階の部屋。
 部屋の灯を消して、大きな窓のむこうに大都会・大阪の夜景が見える。仕事を終えて、夜遅くチェックイン。明日旅立つ飛行機は朝早い。なので、このホテルに前泊チェックイン。
 朝は行動がニブイための用心深い思いからなのだが、この夜景を見るためでもある。

 大阪・桜橋にあるビルの上階バーで、大阪南部のビル群の宝石夜景をながめる。あの辺がナンバ。そのズーッと向こうが関空か?視線をおとすと、中之島公園。阪神高速のカーブあたりで車速をおとして走る車がおもしろい。視界にはいる高層マンションの一部屋、一部屋、灯が点いている所。点いていない部屋、様々だ。

 明るく良い天気。少し風が強いが、神戸港から左に向って大阪湾の稜線が見える。
 目の前の神戸湾には、白い大型船の停泊しているのが見える。

 新大阪そばのホテルの23階の窓際。
 眼下には淀川の流れ。大阪湾に向って右の方にのびている。新御堂筋、十三大橋、阪急電車。生産者と共に昼食のためにこのレストランへ。ゆったりとした気分で情報交換が出来る。
 「アホと煙は高い所に登る!」
 私はそのアホである。高い所が好きだ。
 いやな事がある時。気分のすぐれない時。気持ちが萎縮している時。ストレスのたまっている時。
 眼下を見る。ボヤーと見る。高層マンションの窓にかかっているカーテンを見る。水色の帯のような川を見る。ゆったり流れる雲を見る。
 あのマンションの部屋の中の人は楽しく笑っているのだろうか?あのスピードを出して走っている車の人はイライラしながらハンドルをにぎっているのだろうか?あの戸建の住宅の中では内輪もめをしているかも?
 笑っている人、泣いている人、様々だろう。ボヤーっと思いめぐらしていると、今まで、クヨクヨ考えていた私はなんだったのだろう。
 足もとに見える下界で、私は何をしてたのだろう?小さい。チッチャイ。クヨクヨするな。あの白い雲のようにゆったりと・・・。あの川のように堂々と・・・。あの夜景のようにキラキラと・・・。
 混雑した街の中を人と肩をぶつける様に歩くのも良い。イヤな言葉をかけられるのも良い。ストレスをためる事も、又、良い。そんな事が重なるときは「アホと煙」の仲間入り。
 高い所に登ってアホになると、もっとアホな下界の自分が見えてくる。

コラム12「鬼の形相」


いつも優しい笑顔のマツおばあちゃんが、みるみる鬼の形相になった。

 米屋商売が解り始めたと思ったつもりの、コシヒカリ・ササニシキの銘柄時代の事。商品としての米に銘柄を冠して動き始めた頃である。
 旧食糧管理法があやしくなってきて、許可されようが、されまいが、どこにでも米が販売され始め、スーパーマーケットなるものがあちらこちらに出来てきた。
 「特売!新潟コシヒカリ10kg3,980円」なるチラシが、開店セールとして新聞折り込みされた。
 自店のすぐそばで、スーパー新規開店だ。当時の新潟コシヒカリは、市場価格10kg5,000円以上。
 「3日間の開店特売!お1人さま10kg1袋限り!」である。
 気になり、ドキドキ顔でスーパーの様子を見る。
 (オーバーな表現だが・・・。)1日目は、見知らぬ人ばかり米の売場に並んでいる。2日目は、チラチラ自店 の客らしき人が並んでいる。3日目は、自店の客が大半と思われる様子だ。
 その3日目の昼に、そのスーパーのそばに住んでおられるマツばあちゃんが「コシヒカリ届けて!」と現れたのである。
 「マツさん!スーパーで3,980円ですよ!」の私の声に対して、鬼の形相である。「あんたとは先代からのつき合いや!何があっても、ワシはあんたとこから届けてもらう!・・・なんや!その言い方は!」である。
 マツばあちゃんの言葉が終わるやいなや、私の目がウルウルである。心が震えているのか、体が震えているのか、とにかく頭の中は真っ白か、真っ黒かわからない状態である。

 マツばあちゃんのこの一件がなかったら、今の私はなかったのかも知れない。
どこで、なんぼで売られようが、どんな流行的な販売されようが、私の商売の基本は、今、この目の前のお客さま、今、この人に喜んでもらえる商品。今、この人のために!この瞬間を大事に目の前のお客さまに伝える事なのだと教えられた。
 チラシで新しいお客さまをつかむ。
 遠くから注文のあったお客さまを優先して扱う。
 よそより安くして売ろうとする(究極、タダにすればお客さまは増える)
 特売なる売上で集まるお客さまは、違う店で特売されれば、そちらに移動する。
 テレビなどマスコミで紹介されて集まったお客さまは、次にマスコミに紹介された方に変えられる。様々な米でも、折角来て下さったお客さまは「目の前のお客さま」その都度に満足してもらえる商品を。満足してもらえる対応を・・・。きっとリピーターになってもらえる。
 目の前の今。今の対応が明日につながる。
 クチコミがその例でもある。

 マツばあちゃんの鬼の形相から教わった、大事な教訓である。

コラム11「男はアホやなあ〜」


 「おはようございます!」
 「おはようさんです!」「おはよう〜さん。」
 次から次に若い娘が、ドアを開けて入ってくる。
 「ヒロさん、今日は早いねえ〜。」
 「ウン!ママが早よ来いって!」
 ヒロさんとは俺のことである。まだ俺も青年の時のことだ。
 米屋の出で立ちではない。スーツにネクタイだ。入り口に近いカウンターの席に座っている。
北新地のこの店の"サクラ"稼業である。
その店に、客が入りやすいように、俺が客のフリをして入っているのである(客が客を呼ぶ。並ぶ所に人は並ぶ、との事だ。)その店には、サクラ仲間が俺の他に3人いる。
 俺は、客顔をしているが、この店のママの指示通りに働く。
 「もうお帰りですか?」と言われれば帰らなければならないし、「もっといててよ!」と言われれば帰れない。この店は男相手の水商売。裏からみれば厳しい面もあるけれど、側からみていて面白い。

 その時代にしては、目立たないが、男好きのする可愛い娘がいた。
 「ミナちゃん!カウンター!」とママがその娘に言う。
 スーツをビシッと決めた、キザッポイ客が入ってきたのである。店の娘に案内されて、彼は奥のボックス席に座った。可愛いミナちゃんは、カウンターに座っている俺の前。キザッポ君は他の若い娘に囲まれて笑顔なのだが、視線を時々こちらに投げる。
 彼のお気に入りは、このミナちゃんなのだ。キザッポ君は、ひと時を過ごし「帰る!」と立ち上がった。
 ママがミナちゃんに目配せをした。ミナちゃんは、カウンターを飛び出し、キザッポ君に追いつき、彼女がドアを開けてエレベーターの前(?)まで送って行く。
 ミナちゃんはキザッポ君の腕にぶらさがり、エレベーターに同乗して下まで送る。
 「明日、店に出てるから、明日待ってるから来て!今のお客さんひつこくて離してくれないの〜。
」ひつこい客とはサクラの俺のことである。案の定、キザッポ君は翌日も店に来た。もちろん俺には「来るな。」と言われた。店の作戦である。

 ぐたぐた言う客、自慢話ばかりする客、娘の体をさわりたがる客、会社族、現金客、カード客、男もいろいろ・・・。だが、ほとんどの男は、女性のいいなり。はまってしまう。「お腹すいたの〜、店終わったら食べにつれてって〜。いい店見つけてあるの〜。」
 「家まで送ってくれない?今日のハイヒール痛いの。買ってほしいなあー。」
 アッシー君、メッシー君、プレゼン君。
 俺の若いサクラの時代も、老いた今の時代も男は変わっていない。
 若い娘に頼まれれば、男はシッポを振って喜んで動く。俺を含めて、男はアホやなあ〜、である。

 「悪いが、杉良太郎の芝居の券とってもらえないか?」俺がその方面に顔のきく人物に頼んだ。「10枚も無理ですわ。」とツレない返事。自店のお客さんに頼まれて、その人物に頼んだのだが・・・。
 その後、その人物に、あのママが、その芝居の券を20枚とってもらったとの事。
 その人物は、そのママに「誰にも言うたらあかんでぇ〜。苦労して内緒で手に入れたんやから。」である。ママから10枚、俺の手元に。これも内緒である。
 今度、生まれ変われるものならば、女になって男心をもてあそんでみたいものだ。

コラム10「魅力ある受身の・・・」


 「じゃあ、1000ケースお願いします。」調子にのって、タケダ薬品のセールスさんに言ってしまった。
セールスさんは一瞬怪訝そうな顔をなされた。

 タケダ薬品がプラッシー(みかんジュース)を米屋ルートに持ち込んで、その販売状況が上向きになった時代のことである。酒屋さんルートはバヤリースオレンジの時代、米屋の配達機能を利用したのである。当時は米屋がジュースを・・・?これは水平思考のやりかただ!とか。
当店にもそのセールスさんが、周りの同業者から何ケース注文をもらっただの、何十ケース売っただの、せっついた売り込みをかけてこられた。「じゃあ1000ケースお願いします。」のセリフである。

 当時の当店の顧客数は300軒余り。1000ケースはないだろう・・・はあたりまえだ。300軒の顧客に年間3ケース買ってもらえば・・・。その予約でバックマージンが入る。
 だが世間は甘くない。お客さんに売り込みをかけたが難しい。店の前で、中古で買った印刷機で刷ったプラッシーのチラシを小学校に行き帰りの子供たちに配った。
 「えっ!ほんと?カブト虫もらえるのっ?」
 チラシにカブト虫の絵と、オス・メスつがいのカブト虫プレゼント。プラッシー1ケースお買い上げの方にもれなく・・・!と。

 売ることは難しい、当時有名なコンサルタントの先生の話も聞きに行った。じっとしててはダメ!「攻めろ!」である。
 カブト虫プレゼントは、攻め以上に難しい魅力ある受身の商売である。子供が他の子供に口コミ、親に泣きつき、当店からプラッシーを買う。カブト虫に魅力がある。
 もちろん、バックマージンはカブト虫の仕入れ費用である。

「アイアンキング(ウルトラマンのようなもの)と写真を撮ろう!」とチラシをまいた。プラッシーお買い上げの方に・・・である。
当店から、写真を写す会場の公園まで50メートル程、アイアンキングと4体のぬいぐるみの怪獣の周りは子供連れだらけのパニック。公園では予約以外の親子さんが、「プラッシーを買うから、ウチの子も・・・。」と、その日だけで余分に100ケース以上。
 売る事よりも買ってもらえるように・・・。攻めよりも魅力ある受身の商売を・・・実感した。

一炊之夢 コラム9「売ってから…」


 「フジイ君よ〜。君の言っていることは間違ってない。その通りだ。でも今日は時間もないし、
先程、会長の説明した方法しかない。皆も納得しとる。」
先程の同業者の会を終え、場所を変えての飲み会の席で。
横に座った長老の米屋さんから諭された。

私が米屋の世界に入った新米の時である。
当時は事業協同組合の形をとって、独立した個店の店でありながら、その組合に対して税金がかかってきているのである。その税金の負担割合が納得いかずに、私が意見をのべたのである。飲み会の端のほうの席から聞こえてきたダミ声が私の耳に入った。「アイツ、売ってから言え!」である。

 最近の同業者の集まりでは、あの時の様に迫力のある魅力的な意見が無くなった。ブツブツと不満たらしいのは聞こえてくるのだが・・・。
 「マスコミは今年の特Aの米は・・・と言うけれど、卸に注文しても充分入ってこないし」とか、「他の卸ならもっと安く入ってくるぞ!」とか、兎に角ブツブツである。ブツブツ族、結果は“購買力をつけてから言え!”の時代であると思われる。

 どんな良い意見を発しようと、子犬がキャンキャン吠える程度としか思われていない。大型犬なら「ウ〜ワン!」の一言で終わってしまう。「売ってから言え!」の一言が私の励みになっている。

 小さな米屋の私は、取り敢えず、普通の米屋になりたいと常々思っていた。
人間は生まれたときからハンディキャップを持っている。金持ちさん、頭の良い人、細い人、環境の悪い所で生まれた人、そうでない人。
 だが、どの人にも公平なことが一つある。時間である。どの人にも24時間は24時間である。この部分を利用して、早く並の米屋になりたい。そう思ったら道がある。
 「人の3倍働いて、人の1.5倍儲けて、人並みに遊ぶ!」そう思うことにした。24時間中、3倍は働けない、体力にも問題がある。だが、心構えの問題だ。1日1時間だけ人よりスピーディに働けば・・・。1年で365時間、スピードと効率よくすれば・・・。普通の米屋になれるかも・・・。
 決めてしまえば実行あるのみ。
 ご飯は朝、昼、夜、3食試食するところを朝3種類、昼3種類、夜3種類、ブレンドを含めての試食である。
今でも続けている、50冊の大学ノートに40年以上の記録が残る。それでも、米の事はまだわからない事だらけ。マスコミの中で米の話が出ると、「そうかなぁー」とまだ疑問符をつけてしまうこの頃である。

一炊之夢 コラム8「私のネット感」


 インターネット。
 便利な世の中になったものだ。解らない事があれば、文字を入力して検索すれば、その文字に関する情報がどんどん出てくる。
 私の名前を検索すると、同姓同名の方がおられたり、私に関する情報が出てくる。情報社会とはいえ、私にはついていけないチョット恐ろしい気もする。

 ナンダソレ?フェイスブック?顔の本?本の顔?
 開けてみたらマンガ顔あり、半分何かで隠した顔あり。これ本名なのか?解らない名前あり。
 友達になる?友達申請がある。
 ナンダこれ?どこかで聞いたような名前だなぁ。俺、そんな人知らないよなぁ〜。
 三日ほどほっといて、再度その人の欄を開けてみると、もうそんな頁は無い。

 ウェブでHページを開けてみた。動画だ。ウン、ウン。「続きを見る・・・」と出ている。
 そこをクリック!
 一瞬、大きな画面に大きな文字。
 「入会おめでとうございます!」その文字ピカピカ光ってる。
 ナンダコリャ?「今日から三日間の間に入会金を払えば、ウン十万のところ、ウン万円に割引です。この画面は見放題です」とのこと。
 チョット待て!あわてるな。自分を落ち着かせて、この画面をプリントアウト。
 危なかったなぁ〜。「退会の場合・・・」のところをクリックするところだった。
 「退会の場合・・・」の下に「その場合でも当会が受付け、認めるまでは退会できません」とある。「退会」のところをクリックすると、こちらのアドレスが相手にわかるというシステムになっているようだ。アブナぁ〜。

 ネットで買い物をした。
 その後、これはどうか、あれを買わないか?と情報がくるが、俺の場合、本物の品物を手にとってみないと買わない性格。
 ウットウしいのでアドレスを変えたい状態。アナログ人間の俺にとっては、せわしない世の中になったものだ。

一炊之夢 コラム7「大丈夫!」


 「大丈夫!大丈夫!酔ってない!酔ってない!」
そう言う友に「気をつけて帰れよ!」といって別れたが、そういう俺が頭ボンヤリ、ちどり足。

 「もう飲めない!あかん!あかん!酔っ払った!」のセリフのときは酔ってない。次の行動のための余力を残しておくためだ。

 米屋の世界も変なもの。
 年末に同業者からかかってきた電話に「今日は忙しいわぁ〜」と答えたものなら、相手を不機嫌にしてしまう。「いやぁ〜あかんわぁ〜年々暇にとなるなぁ〜」と答えておけば「そうかぁ〜お前とこもか。何だかますます不景気になるなぁ〜」との返事。相手の機嫌を損なわない。
 「で、次の新年会はどうする?世の中不景気やから、いまから予約しても十分間に合うやろ!」とのことで、米屋業界の俺のあちこち所属する会の新年会続き。
 お客様の経営してらっしゃる飲み屋さんに、日ごろのごぶさた挨拶を兼ねて、単独二次会のつもりで寄ってみた。この時ばかりと店の女の子にたかられて高くつく。気の弱い俺は「いいよ!いいよ!」とたかられっぱなし。
 軽くなったサイフと重い気持ちの複雑なこと。何度、年を重ねても長い目バリと赤い口紅で笑顔を作られると、短い時間で鼻の下が長くなる。いつまでたっても俺は弱い人間やなぁ〜

 年末に「酔ってない!酔ってない!」といって別れた彼はどうだろう。
 年賀状にはご夫婦揃って笑顔の写真。日本は平和やなぁ〜

一炊之夢 コラム6「値上げ」


「永らくお世話になりました。このままいくと、近々米屋を止めることになりそうです。」
ご飯やさん 「どうしたん?」
「いや、もう米屋として回転できなく、本当に、お宅さまをはじめ、良いお客様に恵まれて楽しい仕事ができました。ありがとうございました」
ご飯やさん 「なんで・・・・。」
「米の仕入単価が上がり、売値を上げるのが忍びなく・・・・。」
ご飯やさん 「それで?」
「米の品種や産地によって違いますが、1キロで20円から50円ぐらい値上げをしないと、私どもの店を畳まなければならなくなります。」
ご飯やさん 「ああ、びっくりした・・・。値上げの口上かいな?しゃあないなぁ・・・。お宅が閉めたらウチの店どうなるねん・・・?」
「スミマセン!1`30円の値上がりで・・・。10キロで100人分程とれますので、1人分3円ぐらい上がります。」
ご飯やさん 「そんなもんか。チョッと待って!じゃ1`20円の値上げでどうや!」
「しょうがおまへん。じゃあ来月分から、そういう事でお願い致します。お陰さまでなんとか米屋が続けられそうです。頑張ってみます。」

とうとう12月!
当店の近くの米屋さんも閉めはった。
冷たい師走。
選挙カーだけが、やけに騒がしい。

一炊之夢 コラム5「光と影」


 また今日もアポなしで営業に来た若者。何度も私の留守のとき来ていたらしい。
取りあえず事務所に招き入れてイスに座ってもらい、向かい合って話を聞くことにした・・・・・のではなく、こちらのいつものペースにもって行くことにした。当店の逆セールスをしていただくのが目的である。
 米の話はしない。私のものの考え方を伝える。今日の22歳の若者には「光と影」の話を。
 
「キミ、光っている人間をどう思う?その反対の人間は・・・? 光っている人間はかならず影が濃い。影が濃いから光るんだ。そうでない人間は影が薄いから目立たない。光っている人間の影って何? 良い人間と思われ、そのように見える人は悪い影を持っているから、そう思われている。輝いている人は暗い過去を引きずっているかも知れない。」
 
「影とは秘密であったり、人に言えない苦労であったり、恥じる事であったり、大木で言えば土に中に隠れた力強い根の部分である。魅力のある人は、人には言えない秘密を持っているのかも・・・。」

「その秘密は、あくまでも秘密だからバレたら大変だ。誰かさんと共同で秘密を持っているのなら、双方で守り通さなければならない。お互いに光り続けてるならなおさらである。秘密・・・?それを持つことは、人に迷惑をかけないためでもある。そのことが大切な条件だ。秘密って・・・?それは他の動物にはない、唯一神様が人間に与えてくださった特権だ。園特権を利用しないのは、神様に失礼である(予断だが、最近どこかの市長さんが相手に秘密をバラされたとか・・・。)」

「キミは若い。人に迷惑をかけないことを条件に、いろいろことを経験しなければいけない。若い頃の経験は人間を大きくする栄養剤だ。人間としての幅も広がる。テレビをみても、小説を読んでも、経験が内容の理解に役立つ。」

(この若者、私の話に入り込んで自分の営業セールスを忘れている)

経験は人間の幅と奥行きを作る。物事を理解できる。

 私は人の何倍も米の試食を重ねてきたが、それでもまだ米の事を理解しきれていない。ただ13万回以上、米を試食していることを強調して、お帰り願った。

一炊之夢 コラム4「駐禁」


「アッ!すみません!その車、すぐ動かします!」
 ミドリのおっちゃん(駐車監視員)がうなづいて、そばに置いてあった自転車にまたがって行ってしまった。
 もちろん、私の車ではない。その車で私の米の納入先に来られた人の車だ。案の定、納入先の中に運転手さんがおられて礼を言われた。
 彼らミドリさんは最近手際よく駐禁シールを貼って行かれる。ス〜と現われ、ペタッと貼って、ス〜と行かれる。いや、その場を逃げるようにも見える。仕事ながらトラブルのないよう心がけておられるらしい。
 昨日などは、私が納入先の前に車を停めると同時に、2人のミドリさんが横目で見ながら通り過ぎていかれたので、彼らが次の角を左に曲がったのを確認してから納入店にはいるやいなや、隣のハンコ屋さんが「駐禁きてるで!」と店の中に入ってこられた。「ヤバッ!」である。彼らはすぐに引き返してきたのだ。
 ミドリさんは民間業者とはいえ、みなし公務員である。時々彼らに大声でくってかかっている人がいるが程度が過ぎると公務執行妨害で逮捕される。
 ミドリさんも心得たもの。「弁解は管轄の警察で…」と木で鼻をくくったような返事。警察に行っても「民間に任せていますので…」との返事だと思われる。
 ミドリさんは感情を持たないロボットと同じである。現認主義で「ペタッ!」である。皆さんの邪魔にならないように車も停めるが、パッシングライトを点けようが、エンジンをかけっぱなしにしていようが、おかまいなしに「ペタッ!」である。
 友に聞いた話だが、あの繁盛店がこの制度になってから売上が以前の3割になったそうだ。その店にとって、この仕組みは正に営業妨害だ。
 資金のある大型店は、自己駐車場を持てるが我らのような小さな店はそんな余裕はない。弱いものいじめである。
 我らにはせめて、たとえ他所の車であっても「その車、すぐに動かせま〜す」としかミドリさんに対抗できないのである。

一炊之夢 コラム3「セールス」


電話が鳴った。
「社長さん、おられますか?」
「もうお帰りになりましたか?」
いつも「出てる・・・」と答えているのだが、しつこいセールスだ。
とうとう店にまで出向いてきた。
私「いまおったが、まだ遠くへは行ってないと思う! なんだったらキミ、追っかけてみたら?」
セールス(以降 セ)「??? 社長さんは・・・?」
私「まだ追っかけたら、キミなら追いつくかも? 今ごろなら三途の川の手前か、もう川の中ごろぐらいまで行ってるかも・・・? キミ、店の前の道路に出て走ってくる車の前に飛び込んでみたら。なるべくスピードの出てる車がいいでぇ。そのほうが早く追いつくと思うわぁ・・・」
そのセールス、キョトン顔。少し間をおいて「社長さん・・・でしょう?」
私「わしゃ、おやじさんといわれる方が的を得とる」

「当社は、店舗伊改装を安く出来ますので、この辺を周っておりまして、一度ごあいさつと思って寄らせていただきました」
私「うちには関係ないわ。古びた米屋だけど、そのつもりはないわ」
セ「いや、いまなら記念サービス中で安く出来ますので、この機会にと思いまして」
私「キミ、ギブアンドテークって知ってるか?」
セ「ええ、まぁ」
私「出入口は? リフォームさんやったらわかるわなぁ。出入口を入出口とは言わんやろ」
セ「・・・?」
私「先ずテイクする事よりギブの方が先や。米の2キロでも買って、こちらに金を払ってギブせなあかんで。するとこちらも、あんたの話を聞かなあかんやろ! それに安い安いって何事や? いまの日本はデフレ状態や。リフォームさんやったら、『少し高くつきますが、すごく便利になります。お客さんが入りやすい店舗にしてみせます。ちょっと高くつきますが、すぐ元は取れます』ぐらいのことを言ってセールスしないと・・・。安い安いじゃ日本は沈没してまうで。デフレの原因を作っているのはキミの会社か?」
セ「スミマセン。お米買わせてください」
私「今ごろ言っても遅いわ・・・。わかった。ほんなら毎日10kgずつ10日間買いにおいで。そしたらキミの話聞いたるわ。 それでうちみたいな所へ来んと、国や市などの公共の助成金のおりる、お年寄りの家の手すりを付けたり、お風呂場のすべり止めをつけて儲けてる業者たくさんいるやろ。それも高額な手すりや新品付けてるで。注文する方も、業者も、助成金がおりるからいい目するで。どや! いいアドバイスやろ。」
セ「ギブアンドテーク関係なしに、お米買って帰ります。お米わけてください」
私(チャン!チャン!)

一炊之夢 コラム2「早くっ!」


「バスタブの栓をぬけ!早くっ!」
部屋の窓を全開にして、エアコンをフル回転。散らばっているスリッパ、ティッシュなどをナイロン袋に放りこむ。タオル・シーツ・枕カバーを剥ぎ取り、バスルームへ投げ入れ、新しいカバーをベッドに二人で引っ張り合いになりながら、ベッドメーキング。灰皿交換、商収益を噴霧して、器具に新しい透明カバー。
何もかも大急ぎ。洗面台の周り、化粧台の歯ブラシ類を総チェック。「急げ!」
バスルームに投げ入れておいた、バスタオルやシーツを使って水滴取り。前の人が利用していた形跡をなくす。チェックアンドチェック。ほとんど無言のまま、スピード作業。
ルームチェックの責任者カードをテーブルの上におき、ドアロック。その間数分。
「満室ランプギリギリまで点けるなって!」事務所のモニターに、車が入ってくるのが映っている。回転率勝負の経営。ゴールデンウィーク。観光地そばのモーテルの裏側。

「1時間も前に注文したのに、配達はまだかぁ?米まだ来てないで!」
(・・・もう一軒来たら一緒に配達しよと思っているのに・・・。5キロの配達でガソリン代も出えへん・・・。)
「よその店まだ開いてるのに、なんで米屋もう閉まってんねん!いま炊く米ないからすぐ持ってきてくれ!」
(・・・こんな雨の日にだけ注文してくる。いつもスーパーで買ってもって帰ってるくせに・・・。)

一炊之夢 コラム1「乗り換え」


「フラれたんでしょう?」
「・・・なぜ?」
「そうでしょう?!」
「いや。どうしてるかな、と思って・・・」
「いつもと違うよ・・・。久しぶりに聞く声だけれど・・・。フラれたの?」
「・・・うん。・・・どうしてる?・・・」
「いま、彼、風呂に入ってる」
「・・・そう。・・・またね・・・」
新しい彼が出来たんだ。あれから6年目。いまの・・。いや昨日までの彼女は今ごろ新しい彼とデート中。くやしい!腹立たしい!
いつも今ごろの時間なら彼女を家まで送っている頃なのに。今日は一人で帰宅中。もう一度携帯を取り出して着信を確かめるが反応はない。

米の仕入れ値がドンドンあがる。
いまの仕入先の値頃感のあるものがないかと訪ねれみるが、探してみますと言われ、返ってきた返事が「この値段ならありますが・・・。それも現金で・・」とのこと。
いまの仕入先に乗り換えて6年目。前の仕入先に義理が悪いのだが電話してみると、これもつれない返事。もう納入先が決まってますので・・・と。